McConnell's Spirit Keeps People Talking
人々を魅了するマコネルのファイティング・スピリット
マーク・モンティース
2019年12月5日／pacers.com
ペイサーズの選手になるよりもずっと前、Ｔ・Ｊ・マコネルは“コルツ”の選手だったことがあるが、そうは見えなかった。高校のバスケットボール選手には見えなかった。将来的に大学でプレーする選手にも見えなかったし、まして、名門大学となるとなおさらだった。
NBA選手？ 誰ひとり想像してみようとも思わなかった。本人でさえ。
ピッツバーグのシャーティアーズ・バレー高校で2年目のシーズンを迎えたころのマコネルは、身長173センチ、体重57キロで、どちらかといえば、正規の試合のハーフタイムショーでバスケをやる可愛らしい子どものようだった。しかし実のところマコネルは、父がコーチをしているチームのれっきとしたレギュラーメンバーで、1年生のときは1試合平均10得点をあげていた。その体格からはもちろん、実年齢からも想像できないような、才能と成熟度を備えた選手だった。
デュケイン大学のヘッドコーチ、ロン・エバハートは、マコネルの試合のみならず、オフシーズンのゲームなども見たうえで奨学金をオファーした。だが、2007年10月にマコネルがこのオファーを受けると、ピッツバーグ・ポスト・ガゼット紙は、これを驚きの出来事としてこう報じた。「（デュケイン・）デュークスのコーチ、本当にマコネルをリクルート」
あるデュケイン大のファンは、驚くだけでは事足りず、エバハートにメールを送りつけてきた。「チームがウォーターボーイ（給水係）までリクルートしているとは知りませんでしたね」。のちにマコネルと父親のティムがエバハートのオフィスを訪れたとき、コーチはこの侮辱的な抗議文を2人に見せてやった。
「オフィスを出るとTJが言ったんだ。『誰がウォーターボーイか見せてやるよ！』」ティム・マコネルはそう述懐する。「今でもあれをモチベーションにしてるのさ」
***
ウォーターボーイ。ペーパーボーイ。ボールボーイ。
どの名称で呼ぼうと自由だが、Ｔ・Ｊ・マコネルは、どのレベルのチームにいても、こうした呼び名をつねに耳にしてきた。本人に言わせれば、かつては腹も立ったし、モチベーションにもなったが、だんだん麻痺してきてしまったそうだ。見知らぬ人間からのありふれた侮辱に、いつまでも反発を感じてなどいられない。NBAで5年目のシーズンを迎えたマコネルは、今やインディアナ・ペイサーズの貴重なローテーション・プレーヤーなのだし、それを野次るほうがよっぽど愚かだ。ファンは金を払って観にきている、一線を越えないかぎりは好きに言えばいい、マコネルはそう考えている。
そうでなくても、マコネルは図太くなるよう育てられてきた。マコネルの父は、保護者として、コーチとして、遺伝子を引き継がせた父親として、子どもたちのバスケットボールに役立つことはできるかぎり与えてきた。子どもたちが生まれる前からティムがやってきたことが、そのまま子どもたちの手本となった。
ティム・マコネルは、ペンシルベニア州のウェインズバーグ大学でプレーしたバスケ選手だった。たえず動き、誰が相手でも決して引き下がらない、身長171センチのポイントガードだった。ティムは、かつてカレッジのサマーリーグのゲームで、ペンシルベニア州立大のアメフト選手、グレッグ・ガットゥーソと対戦したときのことを語ってくれた。ディフェンシブラインマンだったガットゥーソは、現在はオールバニー・カレッジのヘッドコーチとなっている。
「これは勝ったなと思ったあたりで、私は時間を使い切るためにドリブルしながら動き回ってやったんだ。グレッグがそれを追いかけてきた。ようやく追いつくと、あいつは私をフェンスにぶち込もうとしてきたよ。
今話す機会があったら、あいつはきっとこう言うだろうね。『まったく、おまえのハッスルぶりにはいつもイライラさせられたよ』。だがね、プレーしたいと思ったら……」
プレーしたいと思ったら、競争に勝たなければならないということを、ティムは理解していた。ティムの子どもたちも、そうやって試合に臨むようしつけられた。
TJはきょうだいのいちばん上だ。弟のマッティはロバート・モリス大学でプレーし、今年からピッツバーグの飲料販売会社のウィルソン＝マッギンリーで働きながら、その地域のカトリックの高校でパートタイムのバスケコーチをやっている。末の妹のメーガンは、シャーティアーズ・バレー高校の女子バスケチームの最上級生だ。ティムがコーチをしているこのチームは、昨シーズンは30勝0敗で州のチャンピオンとなり、今年も連覇を狙っている。ハッスルプレーが売りのメーガンは、TJを彷彿とさせるパスファーストPGで、かつての兄と同じようにデュケイン大学の奨学金を受けて進学する予定だ。
「僕も妹も、コートに出るとクレイジーでね」とTJは言う。
マコネル一家がそれぞれのバスケットボールキャリアを歩んでこられた根源的な要因は、ファンを熱狂させ、敵がフェンスにぶち込みたいと思うような、そのクレイジーなファイティング・スピリットだ。TJの場合は、本気でNBAで生き残るための闘いを意味し、そうやって彼はフィラデルフィアで4年をすごし、この夏インディアナポリスへとやってきた。
ペイサーズとの契約時はローテーション入りを確約されていたわけではなかったが、ネイト・マクミランにはマコネルの存在を無視することはできなかった。脚のつけ根の痛みで休んだ2試合をのぞき、マコネルは毎試合11分以上プレーしている。シクサーズにいたときよりも平均プレータイムは減っているにもかかわらず、エフィシェンシー（総合評価）やウィン・シェア（勝利貢献度）などのアドバンスト・スタッツ解析によれば、これまでで最高の働きを見せているのだ。
少なくとも、マコネルをいまの地位に押し上げた特質は、見た目にも明らかだ。毎日プレーオフ第7戦のような態度で練習に取り組み、コートに出ればスムーズにオフェンスを回し、ベンチにいるときはいちばん声の大きなチアリーダーとなる。
「素晴らしいスピリットを持っているよ」とマクミラン。「試合中も深刻になりすぎたりしない。練習中は闘争心をむきだしにするが、ジョークを言うのも大好きだ。いつもくつろいでやってる。私はああいう男のことを“サンシャイン”って呼んでるんだ。練習だろうと、ピックアップゲームだろうと、いつもそこにいてほしくなるんだよ、あのプレーぶりを見てるとね」
この夏にマコネルがペイサーズに加わって練習を始めた初日から、そのプレースタイルは影響力を発揮した。とりわけアーロン・ホリデーのような若手は、大きな影響を受けた。
「TJは練習も競争に変えてしまう」とマクミラン。「TJは8月や9月のうちからフルコートで当たっていく。だからアーロンもそうするようになったんだ」
ただ、闘争心はときにぶつかり合うこともあり、そういうときは、最後は話し合って解決しなければならない。ティム・マコネルと息子のTJが口をきかなくなり、その膠着状態が何日も続いた日々のことを、ティムは笑いながら話してくれた。
ティムの記憶によれば、シャーティアーズ・バレー高校が、州のプレーオフゲームを闘っていたときのことだ。TJは好調だった。しかし前半に3つめのファウルを犯し、ベンチに下がらざるを得なくなった。相手チームが8点差まで詰めてくると、ティムは息子を振り返って怒鳴った。「おまえがコートにいないからこんなことになるんだぞ！ ファウルをするなと言ったろう！」その後TJは、もうファウルするなという指示を受けてコートに戻った。
「そこからが素晴らしかった。相手をこてんぱんにして、誰ひとりあいつを止められなくなった」そうティム・マコネルは回顧する。「一度はスティールからダンクしてみせたよ。かっこいいダンクじゃなかったが、とにかくダンクした。そのあとあいつは私を見て叫んだんだ。『これで満足かよ！？』」
コーチのほうは、父親にしか言えない言葉でやり返した。
「今夜は外出禁止だからな！」
ジョークではなかった。試合のあと家に戻ると、TJは友だちと出かけようとした。だめだ、おまえは外出禁止だ、とティムは言った。息子は怒り狂った。TJの母親のシェリーはティムをなだめようとした。あなただってほかの選手には外出禁止令なんて出さない――そもそも出せないでしょ、と。ティムは妻の言い分が正しいと気づいたが、それでも自分の言い分にしがみついて引き下がらなかった――というより、引き下がれなかった。
「TJはものすごく怒ってたよ」とティム。
その後2、3日がすぎた。練習のあいだのTJは、コーチであり父であるティムの言うことをきいたが、それ以外で親子が口をきくことはなかった。とうとう母親が介入し、父子は停戦に応じさせられた。
よく似た2人の性格は、かつては争いの種にもなったが、今では絆を深める要素となっている。それはお互いに対するユーモアのセンスからも明らかだ。たとえばティム・マコネルは、私が次にTJにインタビューするとき、ぜひ言ってほしいことがあると言いだした。
「あいつに『ヘイ、君のニックネームはウォーターボーイだったんだってね！』って言ってやってくれ。私がそう言えって言ってたとね」
その後私がTJに「君のお父さんと話をしたんだけど……」と切りだしたところ、TJはみなまで聞かないうちにこう言った。「それは大変ご愁傷さまで」
父子のチームワークは両者を開花させた。TJが最上級生となったシーズンのシャーティアーズ・バレー・コルツは、29勝2敗の成績でカンファレンス優勝をおさめた。TJは平均34.2得点、リバウンド8.2、アシスト9.1を記録し、州のファーストチームとAP通信の3A最優秀選手に選ばれた。
そのころには、デュケイン大学のエバハートが先見の明を発揮し、早々にTJに奨学金をオファーしていた。有名大学のコーチたちも、TJをデュケインから横取りしようと、こぞって口説きにかかった。しかしTJは迷うことなく、実家からわずか16キロの場所にある、デュケインに入学することを選んだ。
1年生のシーズン、2試合をのぞいてすべてスターターで出場したTJは、アトランティック10カンファレンスの1年生の最優秀選手に選ばれた。翌年は1試合平均11.4得点、リバウンド4.4、アシスト5.5を記録し、スティール2.8は全米でも第3位の成績となった。TJはオールカンファレンス・サードチームとオールディフェンシブチームにも選出された。
TJの人生を変える運命的な瞬間が訪れたのは、そのときだった。
2012年、TJの2年生のシーズンの終わり、めずらしくNCAAトーナメントの試合がピッツバーグで開催されることになり、コンソル・エナジー・センターでファーストラウンドとセカンドラウンドがおこなわれた。ホスト校を務めていたデュケイン大学は、16勝15敗、カンファレンストーナメント1回戦敗退でシーズンを終えていた。父親と一緒に試合を観に来ていたTJは、オハイオ州立大のポイントガードに目を奪われた。
TJと同じ2年生のアーロン・クラフトは、身長188センチ、プレースタイルもTJとよく似たポイントガードだった。相手のボールハンドラーにしつこいディフェンスをし、むこうみずなドライブをしかけ、どんなルーズボールにも飛び込んでいく。ファーストラウンドでは17得点、10アシスト、3スティールで、オハイオ・ステート・バックアイズがロヨラ大学メリーランド校を破る大きな力となった。続くセカンドラウンドでは、11得点、5アシスト、6スティールの活躍で、ゴンザガ大を撃破した。
TJは考え込まずにはいられなかった。そしてしまいには、自分の後ろに座っていた父を振り返り、こう言った。「トランスファー（転校）してみたい」
ティム・マコネルは唖然とした。
「なんだと？！ おまえは素晴らしいキャリアを送ってるじゃないか」ティムは言った。
「もっと上のレベルでプレーしてみたいんだよ」TJは言った。
オールカンファレンス・サードチームの2年生にしては大胆な意思表明ではあったが、父と何日も口をきかなくなるほどのプライドと頑固さを持ったTJは、人がなんと言おうと自分にはまだやれることがあると信じていた。自分に賭け、毎年NCAAトーナメントに出場するような大学でプレーするため、試練に立ち向かう覚悟もあった。
試練を受け入れるのみならず、みずから試練の口火を切る気でいた。
「チャンスは一度だけだと思った」TJはそう振り返る。「最高の舞台でプレーして、全米チャンピオンの座を争いたかった。あのNCAAトーナメントを観たことで、その気持ちに火がついたんだ」
いちばんつらかったのは、最初の一歩を踏みだすときだった。ほかの誰よりも先に自分を信じてくれたコーチ・エバハートに、別れを告げなければならない。TJはコーチの部屋に行くのが怖かった。
「ほんとうにつらかった」とTJは言う。「コーチは何も悪くない。素晴らしいコーチだし、人間として見ても、父親や夫として見ても、本当に申し分のない人なんだ。……すべてを兼ね備えた素晴らしい人だった。いちばんつらかったのは、コーチに話をするときだったよ。
でも、今振り返っても、あれは一か八かで自分がくだした、最高の決断だったと思う」
トランスファーの手続きは、NCAAに届出をして、トランスファー・ポータルに名前を載せるところから始まった。デュケイン大にいてあまり注目されてはいなかったものの、それでもある程度の評判を確立していたTJは、すぐさま有名大学の関心を惹いた。
その1校がパデュー大学だった。TJが1年生のときにデュケインのアシスタントコーチをしていたグレッグ・ゲイリーは、その後パデュー大のヘッドコーチ、マット・ペインターのもとでアシスタントコーチとなった。TJはゲイリーと何度か、それにペインターとも電話で話した。大学訪問についても話し合った。
しかし、TJは先にアリゾナ大とバージニア大を訪れ、その両校にすっかり心を奪われてしまい、結局はほかからの誘いをすべて断った。
「あれには本当に腹が立った」現在マーサー大学のヘッドコーチとして初年度のシーズンを送るゲイリーは、そう回顧した。「とてもいい関係を築けていたし、獲得の手応えもあった。腹が立って、『対戦するときには絶対に負かしてやるからな』って言ってやったぐらいさ」
ティム・マコネルは実家から車で行ける距離のバージニア大がいいと思っていたが、TJはアリゾナ大を選んだ。ぴんと来るものがあったのだ。アリゾナのヘッドコーチのショーン・ミラーは、ピッツバーグ近隣の出身で、ピッツバーグ大で名を馳せたポイントガードだった。また、TJが2年生のシーズンの開幕戦で、デュケインはアリゾナと対戦しており、ミラーはじかにTJのプレーを見ていた。それに加え、ショーン・ミラーの弟で、現在はインディアナ大のヘッドコーチを務めるアーチ―・ミラーは、当時デュケインと同じカンファレンスのデイトン大学のヘッドコーチで、デュケインとデイトンは毎シーズン2試合の対戦があった。
そんなわけで、ミラーはTJをよく知るための資料には事欠かなかった。アリゾナのロースターは、1年後にはスターターのポイントガードを探さなければならないタイミングにあり、それはちょうどTJがプレー資格を得る時期とも一致した。
マコネルのキャリアはアリゾナで花ひらいた。全試合にスターターとして出場し、アリゾナですごした2シーズン、NCAAトーナメントではワイルドキャッツの2年連続エリート8進出に貢献した。マコネルのチームメイトには、ソロモン・ヒル、アーロン・ゴードン、ロンデー・ホリス＝ジェファーソン、スタンリー・ジョンソンなどの未来のNBA1巡目指名選手たちがいた。マコネルのプレーメーキング技能や精神力は、才能あるエリート選手たちとプレーすることでさらに輝き、表に現れるようになっていった。かつてデュケインでオールカンファレンス・サードチームに選ばれたマコネルは、アリゾナでの4年生のシーズンにはオールカンファレンス・ファーストチームに選出され、2年連続でカンファレンスのオールディフェンシブチームにも選ばれた。
マコネルらしさが失われることもなかった。
マコネルが4年生のときの12月の試合について、ミラーが語っている。UTEP（テキサス大学エルパソ校）・マイナーズのファンは、アウェイチームにベンチ裏から無礼なヤジを飛ばすことで悪名高く、ときには一線を越えることもあった。ミラーは試合序盤をマコネルの好きなようにやらせ、タイムアウト中も特に何もとがめなかった。ベンチで話をしているとき、ミラーはマコネルが少し上の空になっていることに気づいた。ファンの罵声を耳にしたようだった。
タイムアウトが終わると、マコネルは後ろを振り返り、反撃に出た。
「グリーンのゲータレードをそのファンの胸に浴びせたんだ」とミラー。「相手は怒り狂っていたよ。私はその現場を見てなくて、何が起きたかもわからなかった。とんだ騒ぎになったよ。
つまり私が言いたいのは、TJは無類の闘争心の持ち主だということなんだ。本当にハードにプレーするから、チームメイトにはすごく愛された。そうしないと勝てないという意味じゃなく、それがTJのスタイルで、誰もが愛さずにはいられない。ディフェンスでもオフェンスでもそうだ。まったくアンセルフィッシュだし、昨今なかなかいないタイプだよ」
TJの自己評価はもっとシンプルだ。「的確なプレーをして、まわりのみんなにもっといいプレーをさせようとしているだけだよ」
ただ、それだけでNBAに入れるほど甘くはなかった。
NBAのスカウト陣は例年と同様にアリゾナに足を運び、有望株の偵察に来たが、マコネルはそのなかには含まれていなかった。ミラーは、マコネルのゲームが生みだすもの、彼の持つ数字には表れない能力が、充分に評価されていないと感じていた。
「TJは現実離れした本能を持っている」とミラーは言う。「最高のアスリートたちが相手でも、ある程度は守れるし、ゲーム勘もあって、的確なタイミングでパスを出せる。あれは天性のものだ」
4年生のシーズンを終えたマコネルは、シカゴでおこなわれたNBAプレドラフト・コンバインには呼ばれなかったが、エージェントのクリス・エモンズは、キャンセルや怪我人が出たときに備え、マコネルをシカゴに行かせておくことにした。例年のようにこのときもやはり空きが出て、マコネルはそこでいいプレーを見せ、プレドラフト・ワークアウトの招待をいくつか勝ち取った。マコネルがその夏に参加したワークアウトは、20以上という記録的な数にのぼった。18番目がペイサーズだった。マコネル自身はいいプレーができたと思ったが、そのときのペイサーズにとってのワークアウトの主眼点は、マイルズ・ターナーとフランク・カミンスキーの直接対決を間近に見ることだった。
マコネルはドラフト指名されなかった。1巡目は見もしなかった。「1巡目で指名されるとはとても思えなかったからね」とマコネルは言う。もしものときに備え、友人たちを呼んで2巡目を見ていたが、やはり名前は呼ばれなかった。しかしちょうどそのころ、フィラデルフィア・セブンティシクサーズが、“ザ・プロセス”、すなわち何シーズンか勝利を犠牲にして高順位のドラフト指名権を手に入れ、チームを再構築するという戦略にいそしんでいた。このおかげで、マコネルのように、ロースタースポットを勝ち取るにはほかのポイントガードを何人も負かさないとならない選手にも、チャンスがめぐってきた。
「ザ・プロセスが、NBA入りのチャンスを与えてくれたんだ」とマコネルは言う。「ああいう状況のチームでなければ、僕は生き残れなかったかもしれない」
それでもなお、チャンスはわずかに見えた。幼いころのマコネルは、NBAでプレーする夢など、一度も抱いたことはなかった。ビンス・カーターのプレーは好きだったが、せいぜいカレッジでプレーする自分の姿ぐらいしか想像できなかった。ピッツバーグ出身のNBAプレーヤーは少なかったし、ましてマコネルのように、身体的に恵まれていない選手などひとりも例がなかった。マコネルは誇り高く野心的で自信家ではあったが、一方で現実主義者でもあった。
ティム・マコネルも、あえて信じないようにしていた。かつては息子がディビジョンＩの大学でプレーできるかさえ、確信が持てなかったのだ。しかし、シクサーズがプレシーズンのあいだに何度も選手をカットしてはロースターを整理するあいだも、TJはずっと生き残り続けた。最後のロースター整理がおこなわれようという日の午後、ティムがコーチを務める高校のチームには練習の予定があった。練習中は体育館に携帯電話を持ち込まないよう選手に指示していたティムも、この日はさすがにポケットに電話を入れていた。新聞記者のツイートを追っていた友人たちが、選手の解雇情報が出るたびにメールを送ってくれた。
午後3時15分、ティムのもとに息子から電話がかかってきた。
「あなたの息子がプロになったよ」TJは言った。
ティムは泣きだした。その後TJのキャリアがこんなに長く続いた今でさえ、その瞬間を思いだすと、ティムは声を詰まらせてしまう。
「信じられなかったよ」とティム。
いまでもときどき、信じられないと感じることがある。ティムとシェリーのマコネル夫妻、そしてほかの家族や友人たちは、できるかぎりTJの試合を観に行くようにしている。今シーズンも一度インディアナポリスに観戦に出向いたし、先週の土曜日にはフィラデルフィアでペイサーズ戦を観た。生にしろ、テレビ画面にしろ、息子の試合を観戦していると、ティムはよく頬をつねりたい衝動にかられる。
「いまだにみんなに言ってるんだ。『俺は夢を見てるんだ、起こさないでくれよ』ってね」
驚かなかった人間もいる。ミラーやゲイリーのように、練習や試合でマコネルを見ていたコーチたちだ。
マコネルがパデューを訪問すらしなかったことに怒り狂った2年後、ゲイリーはマウイ・インビテーショナル・トーナメントでプレーするマコネルを見た。パデュー大もマウイに来ていて、ゲイリーはアリゾナと当たる可能性を考え、偵察に出向いたのだ。
「アリゾナが勝ち進んでいるのを見て、あんなこと言わないほうがよかったなと思ったよ」とゲイリーは言う。
パデューとアリゾナはこのトーナメントで当たることはなく、ゲイリーの肩の荷はおりた。だがそれ以来、マコネルのことはずっと見てきたという。
「これは言わせてほしいんだが」とゲイリー。「彼の成功にはまったく驚いていないよ。これまで私が見たなかでも、いちばん闘争心の強い選手のひとりだ。一度闘ってみればわかる。誰が相手だろうと、つねに自分のほうが上だと信じているんだ。それだけの競争心を持ってるし、実は身体能力もあるし、とんでもなく頭がいい。
練習でも相手に勝とうとする。大声では言わないがね。つねにこっそりと忍び寄ってくる。トラッシュトークも大いにやるが、練習中か、同じコートでそばに立っているのでもなければ、彼のトラッシュトークが聞こえることはないだろうね」
かつてウォーターボーイとまちがわれた選手にとって、バスケットボールのゲームは何ひとつ変わっていない。ただひとつ変わったことがあるなら、息子と父親が口をきかなくなることは、もう二度とないということだけだ。
***
Translated by Yumie-na